2025.01.10
2025.01.20
宇宙の扉を開く~第2話「宇宙はもうからない?」
- 文字で構成されています。
※この記事内容は
宇宙開発には大きな夢があると同時に多くの困難が伴います。宇宙関係の業務に長く携わったベテランエンジニアが、みずから体験したさまざまなエピソードをお届けします。
赤字になるワケは
私がN社の宇宙事業を引き継いだ時、とんでもない大赤字でした。もうけはともかく、企業ですから事業継続のためには赤字にはならないように経営していく必要があります。
ところが契約履行中の衛星開発の損益が悪化しているにもかかわらず、後続の衛星を赤字受注してしまいます。私は何とかしたいと関係者と何度も会議を開きヒアリングを実施しました。その結果、なぜ宇宙事業がもうからないかが、わかってきました。
まず、エンジニアは大学で航空工学を学んだ博士、修士が多く、とびっきり優秀ですが、ほとんどの人には「原価管理」という概念がありません。
また、真偽のほどはわかりませんが、なんでも宇宙事業を始めた時の社長が「宇宙事業は宣伝効果が高いので、少々赤字でも宣伝広告費を使ったことにすればよい」と言ったとかなんとか...。この結果、エンジニアは原価という概念を見事に捨てて湯水のごとく経費を使い、ただひたすら論文を書くことに努力を傾注してしまったのです。
N社の宇宙事業の始まりは当時の東京大学宇宙航空研究所が1970年2月に打ち上げた我が国初の人工衛星「おおすみ」の開発を担当したことから始まり、その後、宇宙開発事業団(NASDA)、現在の宇宙航空研究開発機構(JAXA)へと続きます。
これらの組織は文部科学省の監督下にありますから、情報公開が原則です。
計画ができると、ただちに世界に情報発信します。そうするとJAXAの計画よりも高度な計画を発表する国が現れます。するとJAXAは更に高度化すべく計画を変更してきます。
開発途中の仕様変更は経費増を伴うばかりでなく、プロジェクトの遅延、失敗につながるのが当然ですね。
さらに、商用衛星については、1980年代の日米貿易摩擦の結果、科学・防衛関係以外の政府調達(例えば気象衛星)は国際入札の対象となり、量産の得意な米国メーカーに席巻されます。
1990年以降、国際競争入札によって調達された衛星15機のうち、12機は米国のメーカーが落札します。まさに日本企業の国際競争力が低下したわけです。
さらにヨーロッパでは「Buy EU」政策が取られ、EUが調達する衛星事業には日本企業は応札参加資格すらありません。
以上のように日本の衛星製造メーカーは苦しんでいます。この解決には企業の自主努力だけでは不十分で、政治の力が必須だと思います。
※本記事は2025年01月20日現在の情報です。
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