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2025.01.28

2025.01.28

宇宙の扉を開く~第3話「エンジニアのすばらしさ」

※この記事内容は

文字で構成されています。
宇宙の扉を開く~第3話「エンジニアのすばらしさ」

宇宙開発には大きな夢があると同時に多くの困難が伴います。宇宙関係の業務に長く携わったベテランエンジニアが、みずから体験したさまざまなエピソードをお届けします。

高度な専門集団の泣き所は

第2話で「エンジニアは原価管理ができない...」とのお話をしましたが、今回は彼らの技術力の高さについてお話しします。

衛星開発には、構体、システム電源、機器電源、回路設計、熱設計、振動、衝撃、音響、誘導、姿勢制御等々の極めて高度な専門分野の技術が必要です。

構体とは、衛星本体の構造を設計する技術です。宇宙空間の衛星は、太陽光が当たっている面は100℃にもなりますが、その裏側はマイナス70℃になります。これだけ温度の差があると衛星本体の構造物がゆがんでしまうので、このことを考えて構造物の材料・構造を設計する必要があるわけです。

たとえば、国際宇宙ステーションのロボットアーム。一本つくるのに800億円もかかったそうです(当時の東芝の研究所が開発を担当しました)。日なたと日陰で170度にも及ぶ温度差に耐えられる油はないので、油圧は使えません。そこでアームの関節は全て特殊な電動モーターだそうです。高くなるのもうなずけますね。

電源にはシステム電源と機器電源の2種類があります。システム電源は太陽電池から得られた電気を蓄電池に蓄えます。機器電源はシステム電源から供給される電源を搭載機器に適した電圧に変換します。それぞれが専門分野の学会まであるほど専門性が高い分野です。

振動・衝撃はロケットで打ち上げられる際に受ける振動・衝撃にいかに耐えられるかを設計する技術です。また、打ち上げ時の轟音にも耐える必要があり、これが音響工学です。

誘導は、目標とする軌道に衛星を制御する技術です。宇宙空間での軌道計算と、定められた軌道の上に衛星を乗せるのは極めて難しい技術です。

姿勢制御は衛星の姿勢を制御する技術です。太陽電池は太陽光に向かって常に直交させる必要があり、これがうまくいかないと必要な電力が得られなくなり衛星の寿命が尽きてしまいます。

このように、衛星には多くの専門技術が必要で、それぞれの分野にスペシャリストがいます。どの分野も専門性が高く、一人のエンジニアが複数の分野を掛け持ちすることさえ難しいのです。

どの専門家も人数が少なく、誰か体調を崩すと代替がいません。また、トラブルが発生し原因究明に時間がかかると開発業務が止まってしまいます。さらに提案書作成が始まるとエンジニア不足が致命的になります。

当時私もエンジニア探しに、退職者、他社の退職者などなど、八方手を尽くして探し回ったものです。人材不足が一番の泣き所です。

前のお話:第2話「宇宙はもうからない?」
次のお話:第4話「衛星の打ち上げに臨んで」

※本記事は2025年01月28日現在の情報です。

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