2025.02.14
2025.02.19
宇宙の扉を開く~第6話「打ち上げ直前の大トラブル」
- 文字で構成されています。
※この記事内容は
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宇宙開発には大きな夢があると同時に多くの困難が伴います。宇宙関係の業務に長く携わったベテランエンジニアが、みずから体験したさまざまなエピソードをお届けします。
ヒヤリ! あわや宇宙の藻屑
月周回衛星かぐやの活躍のお話の前に、打ち上げ直前の大トラブルについてお話しします。
「かぐや」は2007年9月14日に打ち上げられましたが、実は当初の予定は8月15日でした。
7月のある日、私がつくば宇宙センターに出かけている時、一本の電話が携帯にありました。「かぐや」に搭載している2つの子衛星に不具合が見つかったという知らせでした。その時「かぐや」は既に種子島宇宙センターで燃料注入も終わり、射場へ運ばれる直前でした。
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打ち上げを待つ「かぐや」 ©JAXA
発端は、後続の衛星の振動試験をしている際にエラーが発生し、その原因がコンデンサの極性(プラスとマイナス)の付け間違いと判明したことでした。ほかの衛星でも同じことがないか調べたところ「かぐや」搭載の子衛星でも同じ間違いが見つかったというものです。
このコンデンサは極性を付け間違えても正常に動作しますが、通電が一定時間を超えると確実にショートするということが判明しました。「かぐや」の子衛星は、試験での通電時間はそれより短い時間でしたので試験中にトラブルが起きなかったのです。
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<figcaption class="
「かぐや」に搭載された2つの子衛星 ©JAXA
もしこれに気付かずそのまま月に向かっていたら、通信中継が出来なくなりミッション達成も難しかったと思うとぞっとします。ただちにJAXAに謝りに行きました。対応された「かぐや」プロジェクト責任者のA理事(東大教授)は、私の顔を見るなり「事前にわかってよかったですね!」とニコニコ顔でおっしゃったのには驚きました。これには救われた気がしました。
さて問題は、種子島に行っている子衛星の修理です。注入済みの燃料はヒドラジンという猛毒です。これをどうやって抜き取るか。また修理後の機能確認は種子島ではできないため、東京の府中工場まで運ばなければなりません。
燃料抜き取りと運搬についての手順書を作り、JAXAの関係者の審査を受けて慎重に対応しました。「かぐや」の打ち上げは地球と月の位置関係で日時だけでなく秒単位まで決める必要があります。少しでもずれると、その分、軌道変更のために燃料を消費するからです。
打ち上げ延期の発表を受けて、マスコミは大騒ぎ。だれの責任か、延期に伴う億単位の経費は誰が負担するのか、JAXAは損害賠償を請求するのか、9月は本当に大丈夫か、等々、質問の嵐...。これには参りました。
たった2か所のコンデンサの極性の付け間違いが衛星を宇宙の藻屑にしてしまうのです。打ち上げてしまったあとでは修理ができない人工衛星の難しさを、身をもって経験しました。
※本記事は2025年02月19日現在の情報です。
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